ADHDの診断について

DSM-5における注意欠如・多動性障害(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の診断基準について以下に記載します。診断に際して、多くの関係者や情報源から得られた詳細な病歴により臨床診断を行っていきます。入手できる情報は多いほど良いとされています。現在のところ診断特異的な検査や診断の助けとなる臨床検査はありません。実臨床の中ではIQ検査で下位検査項目のばらつきなどを参考にすることもありますが、点数だけでなく課題へ取り組む様子などの行動観察を一つの情報として解釈することが多いです。

【A1】以下の不注意症状が6つ(17歳以上では5つ)以上あり、6ヶ月以上にわたって持続している。

①細やかな注意ができず、ケアレスミスをしやすい。
②注意を持続することが困難。
③上の空や注意散漫で、話をきちんと聞けないように見える。
④指示に従えず、宿題などの課題が果たせない。
⑤課題や活動を整理することができない。
⑥精神的努力の持続が必要な課題を嫌う。
⑦課題や活動に必要なものを忘れがちである。
⑧外部からの刺激で注意散漫となりやすい。
⑨日々の活動を忘れがちである。

【A2】以下の多動性/衝動性の症状が6つ(17歳以上では5つ)以上あり、6ヶ月以上にわたって持続している。

①着席中に、手足をもじもじしたり、そわそわした動きをする。
②着席が期待されている場面で離席する。
③不適切な状況で走り回ったりよじ登ったりする。
④静かに遊んだり余暇を過ごすことができない。
⑤衝動に駆られて突き動かされるような感じがして、じっとしていることができない。
⑥しゃべりすぎる。
⑦質問が終わる前にうっかり答え始める。
⑧順番待ちが苦手である。
⑨他の人の邪魔をしたり、割り込んだりする。

【B】不注意、多動性/衝動性の症状のいくつかは12歳までに存在していた。

【C】不注意、多動性/衝動性の症状のいくつかは2つ以上の環境(家庭・学校・職場・社交場面など)で存在している。

【D】症状が社会・学業・職業機能を損ねている明らかな証拠がある。

【E】統合失調症や他の精神障害の経過で生じたのではなく、それで説明することもできない

一見診断は上のチェック項目を当てはめれば誰にでも簡単に出来るかのように思えますが、以下の理由などからしばしば診断が困難なことがあります。

まず症状はADHDに特異的な症状ではなく、多くの身体疾患や精神疾患で認めらること。不注意や多動性、衝動性が目立つ疾患は他にもあるのです。また診断特異的な検査がありません。この検査で陽性が出れば、ほぼADHDに間違いないと言える検査がないのです。そして不注意症状は目に見えず、見る者によって評価や捉え方が異なってしまい一致率が低かったりします。また大人の場合は成長するまでに不注意症状への対処スキルなどを身につけいる場合もあり、不注意症状がマスクされていたりもします。人によっては気分障害や不安障害などの他の精神疾患を発症され、症状が見えづらくなっている場合もあります。また不注意という行動上の失敗は自己鍛錬により改善出来るという価値観が診断を遮ることもあります。加えて薬物療法に対しての偏見や不安から、診断に蓋をしたり、そもそも定期的な受診を行う事が難しく受診行為そのものを先延ばしにしてしまうことなどもしばしば見られます。

近年、ADHDが社会的に認知されるようになり過剰に診断がされすぎているという意見もあります。確かに本人も周囲も特に困っていないのに、限られた情報だけで安易に診断がくだされてしまう事は避けないといけません。しかし古くからの報告である有病率(3%)で考えても、未だ多くの方は未診断にあると考えられています。子ども時代に上のに診断基準を満たした方の約3割の方は大人になっても診断基準を満たす程度の症状が持続していると考えられており、そういった方の中に大人になって失敗や挫折が続き、自閉症スペクトラム(ASD)の方と同様、二次的に精神疾患を発症され、うつ病や不安障害などの違う症状で精神科に通院されているケースもあり、そういった事を含めて考えるとまだ診断と治療がされすぎているとは考えにくいと思われます。

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