自閉症スペクトラム(ASD/広汎性発達障害)について

これまで一生懸命努力してきたのに、どうして普通と言われることが上手くできないのだろう?と悩みが深まり、なんだか自信をなくしかけていませんか・・・?
もしかするとそれは努力不足や周囲のせいなどではなく、発達障害の特性との上手な付き合いかたに気づいていなかったせいかもしれません。ここでは代表的な発達障害について、どういった特性で、どういったことが起きやすいか?などについて見ていきたいと思います。

自閉症スペクトラムとは

自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder:ASD)とは、以前は「自閉性障害」「アスペルガー症候群」「特定不能の広汎性発達障害」などのサブカテゴリーを含む「広汎性発達障害」と呼ばれていた発達障害であり、2013年にアメリカ精神医学会の診断基準DSMにおいて改定され、共通した特性を持つ一つの障害として「自閉症スペクトラム(ASD)」として診断名が統一されました。

障害の中心となる特徴としては、「(a)社会的な対人関係を相互調整するのが困難」で「(b)強いこだわりをもつ」といったものがあります。これらの特性は生まれつき、少なくとも3歳以前から出現することが多いとされています。主要な特性以外に、付加的な特性(随伴特性)や他の発達障害の合併、2次的な精神障害の併存、年齢や個々の発達レベルの違いなどがあり、個々によって表れ方は様々であり、また社会性の問題や対人関係を調整する力、コミュニケーションの問題、こだわりなどは一般の生活の中で数値化されて見えるものでもない分、かりづらさにつながっています。例えば受け身的で小学校の成績も問題なければ目立ちにくく、思春期以降の人間関係が複雑になる頃に不登校をきっかけに気づかれたり、また大人になり会社に就職してから業務トラブルや対人トラブルが続きうつや不安などの精神症状が出現し気づかれる方も多いのです。多様で分かりにくいのですが、対人相互調整の問題は、表れ方を変えながらも「一貫して」見られる特性です。

子どもの約20~50人に一人いるという報告もあり、男性に多く女性の約2~4倍とも言われています。原因はいまだ解明されておらず、生まれつき脳の機能に影響を与える何らかの生物学的な基盤があるのではと考えられており、親の育て方や躾の仕方、心理的なものが原因でおこるわけではないことは分かっています。

自閉症スペクトラムの特性について
特性については、ASDのすべての方に見られる①主要特性と、人によっては見られない②付加的特性とに分けられます。上で記載したように、個々により年齢や発達のレベルによって特性は大きく異なり、どの特性も一つがあればイコールASDとはいえません(例えば社会性の障害は他の精神疾患でも障害される事があります)

①主要特性
社会性の障害
コミュニケーション発達の障害
想像力、象徴的な遊びの能力の障害
限られた興味や関心、行動のレパートリー
3歳以前の発症(1歳以降の言葉の遅れ、3歳以降の反復行動などで気づかれることが多い)

②付加的特性(随伴特性)
常同的行動(反復的な運動など)
感覚の特殊さ(感覚過敏、鈍麻など)
緊張や情動調整不全(癇癪やパニックなど)
協調運動の低下(不器用さなど)
高次感覚のアンバランス(認知機能の凸凹など)
自律神経系の不安定さ(自律神経失調症起立性調節障害過敏性腸症候群)
神経学的異常(てんかん合併など)

さらに詳しく

併存疾患について
ASD以外に他の疾患や障害が重複する場合があります。併存疾患の方で気づかれたり、困り事として目立ってしまうこともあります。併存疾患としては、てんかん、ASD以外の発達障害(ADHD、学習障害、知的障害、発達性協調運動障害など)、睡眠障害、チック障害などがあります。また長年苦労を重ねていく内に精神疾患を合併したり、併存するケースもあります。気分障害(非定型的なうつ病双極性障害)、不安障害(強迫性障害社会不安障害など)、依存症(アルコール、薬物、ギャンブル、ゲームなど)、場面緘黙症や解離症状、摂食障害などでクリニックを受診するケースもあります。

自閉症スペクトラムの診断と治療について
診断に際しては、診断を受けるメリットとデメリットを考えた上ですすめていきます。本人や周りの方がASDの特性や症状で困っており、診断を受けることで症状や状況の改善が得られる場合にはメリットがありそうですが、特に成人において本人も周囲も特に困っていない時にはわざわざ診断を行うことはあまり勧められるものではありません。
診断については今のところ特異的な医学的検査はありません。ご家族から聴取した発達の経過と現在の適応機能、診察を通しての行動や特性の観察、周囲からの情報などに基いて包括的な診断と評価を行います。診断の信頼性と妥当性を高めるための診断手法を用いることもあります。年齢に合わせて他の病気との鑑別も大切です。言語障害、知的障害、愛着障害、大人になれば統合失調症や統合失調型パーソナリティ障害、知的障害や学習障害その他の神経疾患などが挙げられます。
ここで参考にDSM-5における診断基準を記載しておきます。

👉DSM-5におけるASD診断基準

治療や支援としては、年齢やライフステージ、その方の発達特性などに応じて変化してきますが、大きくは障害特性に対するものと、2次的に生じる精神症状や問題行動に対するものがあります。加えてお子さんを支える家族にも支援が必要であり、場合によっては不安や抑うつなどの精神症状が出現している場合もあり、家族の精神的な健康の回復をサポートしたり、本人への対応の方法を共に勉強したり(心理教育やペアレント・トレーニング)、学校との連携を通して環境調整を図ることもあります。就学前後での障害特性に対する支援の基本はいわゆる療育と呼ばれる介入です。年齢や個々の発達の程度に合わせて支援の方法は変わってきますが、療育を通して、適切に、積極的に、早期に介入することですべての領域の発達を刺激し、機能を改善させていこうとします。地域にある公的・民間の療育センターなどで相談に応じてくれます。

一方、大人になって気づかれる場合、多くの方は2次的な精神症状を呈しており、精神科的治療をすすめていきます。ある程度落ち着けば、それまで持てる力で適応してこれた部分や強みを確認しつつ、改めて障害特性について共に勉強をおこなっていきます(心理教育)。特性自体は生涯に渡り続くものであり何か薬を飲めば消えてなくなったりするものでもなく、一般の病気のように「治療して治す・なくす」といった考え方は馴染まないものです。それぞれが持つ特性のため、周囲の人とのつきあいや、社会生活を円満におくることが大変になっており、それらを軽減するための対処法を身につけたり、日常での困り事を減らす工夫を話し合いをおこなっていきます。また行政支援を得られるように発達障害支援センターなどで相談を行い、相談したり理解して貰えるサポーターを増やしていくことも大切な働きかけとなっていきます。

気になる行動や心配が続く場合は、地域での発達相談や発達障害の診療を行っている小児科もしくは精神科に一度相談されることをおすすめします。

👉疾患について